2024年1月18日(木)東御市中央公民館 第5学習室にて、第5回東御市における共創による地域交通人材育成アカデミー講演会を開催いたしました。
第5回講演会は講師として、岡山県美作市より水柿大地(みずがき だいち)氏をお迎えし、「助け合い、笑顔が生まれるコミュニティづくり」と題してご講演いただきました。
講演の中では、岡山県美作市上山地区での、地域内外の住民でつくる新たな農村コミュニティの企画・運営、農村で暮らす高齢者の生活支援事業の立ち上げや自治体、集落等の中間支援など、地域の活性化に向けた取り組みと学びについてお話しいただきました。
地域おこし協力隊員から新たな農村コミュニティの担い手へ
東京都出身の水柿さん。大学時代に農村地域を福祉の観点から学ぶなかで、2010年に大学を休学し「地域おこし協力隊」として岡山県美作市上山地区に移住しました。
地域おこし協力隊を退任後も美作市に居住し、1人暮らしの高齢者等の日常支援事業「みんなの孫プロジェクト」を立ち上げ。集落の若手メンバーでチームを組み、草刈り、家の片付け、修繕など高齢者世帯の困りごとをサポートしています。
そのほか、上山地区内で耕作放棄地となった棚田の再生事業に取り組む「NPO法人英田上山棚田団」、岡山県内の集落や市町村の地域づくり支援に特化した「NPO法人みんなの集落研究所」などでの活動もされています。
棚田の再生から始まった美作市上山地区での取り組み
上山地区の棚田再生活動は、2000年に移住したひとりの男性が棚田の水路掃除のため、手伝う仲間を都会から募ったことをきっかけに始まりました。週末だけ集落を訪れるメンバーが住民と協力して棚田を整備し、「田んぼもやってみよう」と活動の輪が徐々に広がり、現在までの移住者の増加につながります。
上山地区に移住した人の特徴として、棚田での農業の他に、個人の専門分野や地域資源を活かした事業を行い、兼業農家で生計を立てる人が多い点が挙げられました。医師、木工作家、キャンプ場オーナー、福祉事業者、宿泊事業者など、多様な人材が集まり棚田維持管理を通じてコミュニティを形成。外部の企業・団体等とも連携を図りつつ、活動しています。
若い移住者でも農業を始めやすく、兼業で農業を続けやすい体制づくり
「英田上山棚田団」では、団体に所属する会員で農地を共同管理。トラクターなどの農機具も法人で管理して、共同で使用することで機械代金などのコストを抑えています。
草刈りの時期は会員が棚田に集まって作業を行い、その場で今後の動きも話し合うなど、農作業がコミュニケーションツールとしても機能しています。
団体の会員になることで会費徴収や、棚田を整備する共同作業への参加はありますが、単独で農業を始める場合にハードルとなる、まず農地を借りる、機械を用意する等の負担が軽くなります。若い移住者でも農業を始めやすく、兼業で農業を続けやすい体制ができました。
棚田で収穫したお米は、麹や、アイスクリーム、玄米コーヒーなどにも商品化。棚田団の会員はそれぞれの暮らし・事業に軸足を置きながら、農業のための持ち出しはなく、農作業による収入があり、お米も得られる、自分の事業や給与収入もある、という「赤字が出ない兼業農家」のモデルを実現しています。
集落の暮らしで大切にしていること
水柿さんは移住者の定着を促し、地域の活性化につなげるという視点から、集落の暮らしで大切にしていることをお話しされました。
農業用水路の整備、お宮の清掃など、集落の根底にある活動に地域住民も移住者もすすんで参加することで、地域に「受け入れる側」と「外から来た側」の協働する関係性がスムーズにスタートします。
共同作業に積極的に関わることで、コミュニケーションが増え、チームワークや自治力が向上。一見遠回りな取り組みにも見えますが、そうした積み重ねから信頼が生まれ、高齢者から若手への事業譲渡、不動産の紹介など、その後のさまざまな事業が地域内で生まれる結果につながっています。
美作市上山地区でも高齢化、人口減少が進んでいますが、移住者や外部人材を積極的に呼び込むこと、地域作業でも効率化のために連絡手段や時間の使い方を変えていくことなどで、地域の中で「能動的に動ける人」の割合を少しずつ高めています。
未来を見据えた、持続可能な助け合い活動
棚田の維持管理から発展し、さらにこれからの暮らし全体を見据えた活動として、2016年から、(一財)トヨタモビリティ基金の助成により実施された「上山みんなのモビリティプロジェクト」についてもご紹介いただきました。
「住民の生活支援」「農業」「観光」の3点の振興・推進を図るプロジェクトとして実施された「上山みんなのモビリティプロジェクト」。プロジェクト助成期間は3年間でしたが、期間が終了した後も住民参加による主体的な取り組みとしていくために、外部から一方的に提供するのではなく、住民主体の意見や仕組みづくりをできるよう注力しました。
暮らしの課題を調査をすることから始まり、お茶会、ランチ会など地域住民が意見交換をできる「集いの場」を設けました。参加する住民の機運を徐々に高め、そこから課題に取り組むチームが生まれ、地域の交通課題を解決するカーシェアリング等を実施しました。
プロジェクト終了後も、上山集落では毎月一回、住民同士で食卓を囲むランチ会が開催されています。子どもから90代まで毎回20~30名の参加者が集まり、食事をしながら意見やアイデアが飛び交うなど、重要なコミュニケーションの場となっています。
月一回、昼食の時間であれば高齢者だけではなく現役世代も参加ができる。食事作りは当番制で、さまざまな年齢の人が担当するため、家では作らないメニューが食べられるなど喜ばれる。ワンコイン500円の参加費で食材を買い、余った金額は地域の助け合い活動資金に充てていく、などさまざまなメリットや工夫があります。
住民の集いの場から生まれた取り組みとして、集落の住民が集まりバスで出かける「コミュニティバスツアー」を実施しています。年に4・5回中長距離でみんなで外出し、住民の「出かけたい」ニーズを満たしつつ、交流の機会ともなり、その後の助け合い活動への参加を促す効果も期待されます。
参加費は一般のバスツアーと比べ半額程度。車両レンタル代等の経費を支払った残金は、ランチ会と同様に「助け合い活動資金」に積み立てます。こうした仕組みによって、補助金助成金だけに頼らず、取り組みを地域で自走させていく狙いがあります。
活動を続けるうちに、住民同士の交流機会が自発的に増え、2015年時点では介護予防教室などで年間180人程度だった地域交流参加人数が、2019年では年間1185人まで増えました。
地域の移動課題を解決する取り組みとして始まったカーシェアリングサービスは、地域のボランティアドライバーによって運営され、集落の誰でも利用できます。費用は利用料ではなく活動経費のための積立金として徴収し、ランチ会やバスツアー参加費の余剰金も加えて、カーシェアリングの運営費に充てています。
そのほかに、集落で収穫したにんにくを主役にしたイベントを開催、にんにくから焼き肉のたれを作って販売、東京、大阪など都会で棚田のお米を食べてもらうイベントなど「自分たちが楽しむこと」を大切に企画。棚田に出資して株主になってもらう、宿泊事業など、結果的に地域の関係人口、移住者が増え、移住者による新事業立ち上げなどの効果が生まれています。
発想を行動に変えられる地域の雰囲気を作り、時には若者、時には高齢者が主導して、老若男女問わずチャレンジしていける地域を目指し、これからも上山地区の取り組みは続きます。
急がずに丁寧に、住民同士が尊重し合ってコミュニケーションを重ねていくことの大切さ、課題解決においても主体性を持って自走できる仕組みを持つことで、誰もがいきいきと暮らせる地域づくりの可能性を感じる講演会となりました。
水柿大地〈みずがき だいち〉氏
NPO法人英田上山棚田団理事
NPO法人みんなの集落研究所執行役
みんなの孫プロジェクト代表
- 東京都出身。2010年から岡山県美作市にある棚田の山里「上山」で暮らす。
- NPO法人英田上山棚田団の理事として、農を軸に地域内外の住民でつくる新たな農村コミュニティを企画・運営。農村で暮らす高齢者の生活支援事業の立ち上げや自治体、集落等の中間支援にも携わっている。
- 専門領域は農業・福祉(特に山間地域や農村集落周辺)。
合同会社まるごとは、長野県東御市での地域活性化の取り組みとして、地域の交通に関する課題解決を目指し、他の地域の成功事例を学ぶ全8回の講演会を計画しています。
デジタルを活用した地域活性化、まちづくりなどの取り組みに少しでも関心のある方はどなたでも講座にご参加ください。