講演会を開催しました:食を通じたまちづくり A級グルメのまちの作り方

2025年11月17日、東御市中央公民館にて、島根県邑南町を「A級グルメのまち」として全国的に知らしめたまちづくりの立役者である寺本英仁氏を招き、「食を通じた人の集め方と地域ブランディングの秘訣」について講演をいただきました。

単なる名物グルメにとどまらず、「A級(永久)」の意味を込めて「100年後に残る食」を目指すという独自のコンセプトを掲げ、地域の魅力をどのように発信し、住民とともにまちを育ててきたのか。「食」を軸とした地域活性化の実践例としてお話を伺いました。

講演後には、参加者同士および講師との意見交換の時間も設けられ、「食」や「地域づくり」に関心を持つ参加者による活発な議論が行われました。

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邑南町「A級グルメのまち」の取り組み

寺本氏は、邑南町が「100年後に残る食」を掲げて地域づくりに取り組んできた経緯を説明しました。15年間の取り組みにより、観光客は当初の年間30万人から最大100万人規模にまで増加し、飲食店は10店舗から50店舗近くまで増えたといいます。特に「食の学校」を通じた人材育成の仕組みを構築し、地元食材を地元で調理して観光客を呼び込む戦略が成功の鍵でした。

日本経済と地方の現状認識

講演では、日本経済の停滞と地方の厳しい現状についても触れられました。1988年と比べて平均年収が30万円減少している一方、消費税は3%から10%に上昇しています。主要先進国の平均年収が1,000万円を超える中、日本だけが約30年間横ばいの状況です。インバウンド需要は増えているものの恩恵は交通利便性の高い地域に偏り、地方は人口減少と都市への一極集中が進む厳しい局面にあると指摘しました。こうした背景から、地方創生には新たな戦略が求められています。

ブランディングの重要性

寺本氏は、適正価格の考え方として「(経費÷生産数)+利益=価格」の式を示し、売上を高めるには大量生産・大量消費型か、付加価値型ビジネスのいずれかであると説明しました。人口減少時代には後者が不可欠であり、付加価値を高めることはブランド力の向上と同義であると強調しました。

ブランド力を高めるポイントとして、①誰もやっていないことに挑戦すること、②コラボレーション力を強化すること、③あえて時流に逆行すること、④地域課題を解決すること、を挙げました。特に認知度向上のためのスピード、ネーミング、ストーリーというSNS戦略の3要素を重要視し、認知度が高く普及度が低いほど価値が高まるという原則を示しました。地方にはターゲットを絞った認知度向上戦略が有効であると述べました。

行政の役割について

寺本氏は、行政の役割として枠組みづくりと環境整備の重要性を指摘しました。農業振興と飲食店育成を一体的に進め、販路開拓を支援することで地域内経済循環を促進する必要があると述べました。また、公共施設については戦略的に経営し、直営で収益を確保した後に指定管理へ移行するなど、柔軟な運営方法を提案しました。行政は民間では取り組みにくい分野を支える役割があり、官民連携が不可欠です。

東御市への示唆

東御市については、東京から新幹線でアクセスしやすい立地、15軒のワイナリー、多様で質の高い農産物といった強みを挙げました。一方で、飲食店数のさらなる拡充は地域経済循環の強化につながる余地があること、中長期的なプランを官民で共有する重要性が示唆されました。ワインツーリズムなど、これまでの取り組みがすでに基盤として存在するからこそ、さらなる活性化の潜在力があると述べました。

質疑応答での主な論点

  • 若手職員時代、地域活動がメディアに取り上げられたことを通じて認知度が高まり、町長との直接的なコミュニケーションを実現したことで事業が一気に進んだ経験が語られました。また、周囲との協調の重要性も指摘されました。
  • 長年にわたり地域住民と関わり続け、夜遅くまで地域活動に参加してきた経験を振り返りつつ、現在の若手職員には時代に合った育成を心がけていると述べました。
  • A級グルメの取り組みには「一部の事業者だけが儲かる」という批判もあったものの、全町民に平等に利益を還元することは現実的に難しいとし、その中でも公共性と公平性のバランスを取りながら地域全体の底上げを目指してきた経緯が語られました。

持続可能な地域づくりに向けて

人口減少と経済停滞が続く中で、大量生産・低価格ではなく、付加価値を高めて適正価格で販売する戦略の重要性が示されました。東御市には恵まれた条件とこれまでの取り組みの蓄積があるため、官民が連携し、販路開拓や人材育成を含む総合的な産業振興策を実行することで、さらなる地方創生の可能性が広がると考えられます。

参加者からは、寺本氏ならではの実践的な事例と率直な意見に対して高い評価が寄せられ、官民連携によるまちづくりに向けた貴重な示唆が得られる機会となりました。

寺本 英仁〈てらもと えいじ〉氏

  • 株式会社Local Governance代表取締役。 島根県邑南町の人口1万人の小さな町で邑南町役場職員として『A級グルメのまち』と銘打ち、全国からお客が殺到するイタリアンレストランや食の研修施設である「食の学校」などを立ち上げ、食と農を切り口としたまちづくりに取り組む。令和4年に町役場を退職し、にっぽんの田舎を元気にする株式会社Local Governanceを設立。

地域文化の継承と担い手づくり、モビリティづくりなどを目的に設立した「合同会社まるごと」では、高齢者のお出かけ支援、介護タクシー事業などを通じて、地域の課題解決に取り組んできました。今後の活動加速にむけ、東御まるごと共創コンソーシアムを立ち上げ、その一環として、「交通を軸に、東御の未来を考える」をテーマに、2回にわたり講演会を開催します。

地域活性化、まちづくりなどの取り組みに少しでも関心のある方はどなたでも講座にご参加ください。

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