講演会を開催しました:移動と交流からはじまるこれからの地域デザイン

2025年12月2日、北御牧公民館にて、神奈川県相模原市藤野地域で多様なまちづくりを実践してきた高橋靖典氏をお招きし、「移動と交流からはじまるこれからの地域デザイン」をテーマにした講演会を開催しました。

地域の活性化は「人と人とのつながり」から生まれます。神奈川県相模原市で多様な分野を横断し、行政・企業・市民をつなぐまちづくりを実践してきた高橋靖典氏を迎え、東御市が注力する「ワインツーリズム」「ヘルスツーリズム」「農業振興」「文化創出」などの事業拡大、「移動難民の解消」「移住促進」などの課題解決に向けて、「人と人の関係づくり」を基本的な考えに据えた対応方法を考える機会となりました。

Contents

藤野地域の概要と課題

神奈川県旧藤野町だった藤野地域は2007年に相模原市に合併し、合併時は10,720人だった人口は、現在は約7,600人まで減少しています。新宿から約1時間〜1時間半の中山間地域ですが、若者の流出、高齢化と空き家問題、交通・移動の課題など多くの地方と共通する課題を抱えています。

「芸術のまち」を起点とした発展と移住者の増加

藤野地域では1940年代の画家の疎開などもきっかけに、1986年に「藤野ふるさと芸術村構想」、1988年に「藤野ふるさと芸術村メッセージ事業」が開始されました。やがて市民主導による多様な文化が形成され、教育、農業、食、まちづくり、福祉、経済、環境など、あらゆる分野で「藤野らしい」取り組みが生まれ続けました。

特に2005年開校のシュタイナー学園は移住促進の大きな要因となっており、開校時には世帯が一斉移住し、現在でも毎年15-20世帯(60-80名)の移住があります。移住者には医師、コンサルタント、金融、映画監督、建築家、写真家、作家、デザイナーなど、時間や場所に拘束されづらいクリエイティブな職業の方の比率が高くなっています。

地域通貨「よろづ屋」の仕組み

高橋氏が最も力を入れて説明したのが地域通貨「よろづ屋」の取り組みです。地域通貨と呼んではいますが、人々が繋がり、心を通わせる手段として機能しています。約650世帯、約1,600名弱が加入し、通帳方式で運用され、情報はメーリングリストで共有されます。

取引内容は多岐にわたり、送迎や保育、留守中のペットや植木の世話、田植え・稲刈り、子ども用品の譲渡、修理や刃物研ぎ、ヘアカット、整体、学習塾、ペーパードライバー講習、体調相談などが行われています。情報交換としてイベント呼びかけ、交通情報、クマ出没情報なども共有され、地域活動として被災地への支援や森の整備の呼びかけも実施されています。

「よろづ屋」は、既存の住民だけでなく新しい移住者の地域での繋がりづくりを促進し、安心感とコミュニティへの貢献意識を育んでいます。

藤野電力と災害時の相互支援

2011年の東日本大震災を機に、自然エネルギーに地域で取り組む活動として「藤野電力」が生まれました。お祭りやイベントへの再生可能エネルギーによる電源供給、発電システム組立てワークショップの開催、市民発電所の建設などが主な活動です。

森のイノベーションラボFUJINOとプロジェクト創出

合併後の未利用公共施設を活用したテレワークセンター「森のイノベーションラボFUJINO(森ラボ)」では、2022年4月より民間で運営を行い、リビングラボの手法を取り入れて利用者、住民、企業、行政、大学等が境界を超えて共創しています。会員登録者は約1,400名で、現在27のプロジェクトが稼働中です。

若い世代が主導するプロジェクトでは、高校生のリーダーが規格外野菜の問題に着目しました。A級品と同じ額で買い取って商品化する取り組みを始め、「野菜を労る高校生のふりかけ」として販売を開始しました。バリアフリープロジェクトでは、高校生がコミュニケーションロボット「ハグボット」を開発し、市のSDGs推進事業補助金に採択されています。子どもの発達支援プロジェクトには36名が参加し、インクルーシブ教育の推進や当事者同士のつながりによる相互支援を実施しています。

弱い紐帯の強さとソーシャル・キャピタル

高橋氏は、マーク・グラノヴェッターの「弱い紐帯の強み」理論を紹介しました。1970年のハーバードの実験で、現在の仕事を得た方法を調べたところ、親しい友人よりもつながりの薄い知り合いから得た情報を元にしていたことがわかりました。緊密な関係は人間関係が重なるため情報探索には有用ではない一方、弱いつながりは情報の冗長性が低いため極めて有効です。

高橋氏は「6人介せば米国大統領にも手紙が届く」という例を挙げ、多様な人々が出入りする「場」の重要性を説きました。

小さく始めて大きく育てる実践手法

高橋氏は、まずやってみる姿勢の重要性を強調しました。小規模な実験から始め、失敗してもリスクを最小限にし、うまくいったら行政と連携・拡大します。ハードルを下げて誰でも参加できる仕組みにし、自分と違う価値観の人とつながり、意見の不一致を対立にしないことが重要と述べました。

地域通貨については、まず10人程度から開始し、毎月説明会を開催することで約1年で100人規模に成長しました。メーリングリストで情報共有し、完了したら報告する仕組みで運営しています。従来の町内会・自治会が機能不全に陥っている中で、やりたいことと暮らしに必要なことが一致し、自由度が高くやりたいことにアクセスできる仕組みが有効であると指摘しました。

グループディスカッションでの主な意見

講演後、参加者は3名ずつグループに分かれて意見交換を実施しました。地域通貨への関心が高く、「この地域でもできるんじゃないか」「交通、公共交通が少ない中で困っている」「昔は地域の中で助け合ってきたが、それが消えてしまった」といった声が上がりました。メルカリなど地域外に頼っているものを地域の中で循環できるようになると良いという意見も出されました。

つながりの重要性については、「物だけの問題じゃなくて、子供の話などにもつながっていく」「いろんな人のつながりがあると、地域の隠れた資源が見えてくる」「困った時に、ここに頼んだら解決できるという信頼が地域を良くする」といった発言がありました。小規模から始めることの重要性として、「15人くらいで地域通貨をシミュレーション体験してみたい」「小さく始めることの大切さを学んだ」といった声が聞かれました。

まとめ

今回の講演は、現在取り組んでいるテーマに直結する示唆を多く含むものでした。特に、地域課題の解決に向けては、大規模投資よりも「小さな実験」を積み重ねることが重要である点が強調されました。藤野では、地域通貨を通じた送迎支援が信頼関係を育みながら広がっており、相互扶助の仕組みとして機能しています。東御市内でも同様に、小規模な試行から始めることで、地域の実情に即した形で発展させていくことが可能です。

移住促進については、「移住したい理由」の創出が鍵となります。藤野ではシュタイナー学園という教育的な魅力が、毎年15〜20世帯の移住につながっていることが紹介されました。東御市においても、ワイン、農業、自然環境といった地域資源を、人とのつながりやコミュニティの魅力と結びつけることで、移住者が具体的な価値を感じられるような提示が求められます。

また、文化創出に向けては、市民や若者が主体となり、多様なプロジェクトに挑戦できる環境の整備が欠かせません。森ラボで展開されている27のプロジェクトのように、行政主導ではなく、自発的な小規模実験を重ねる文化を地域内に醸成する必要があります。失敗を恐れず、「まずやってみる」姿勢を共有することが、今後の地域の活力につながります。

総じて、本講演は「人と人とのつながりを資源に変える」視点を中心に、東御のまちづくりに役立つ具体的な方向性を提示したものでした。日々の取組によって信頼を蓄積し、既存の魅力を新たな価値にも転換することにより、今後の発展に寄与できればと思います。

高橋 靖典たかはし やすのり

森のイノベーションラボFUJINO・コミュニティマネージャー/中小企業診断士

  • デジタルハリウッド株式会社を経て、地域経営・コミュニティデザインの専門家。行政・企業・NPOを横断しながら、相模原市をはじめ各地でまちづくり、移住促進、地域交通、文化企画などのプロジェクトを推進。“人のつながりを資源に変える”実践者として注目を集めている。
    アーティストやクラフト作家のシェアスタジオや、ソーシャルビジネスのためのシェアオフィスを運営する(一社)藤野エリアマネジメント代表理事、古民家宿泊施設やレストランを運営する農業法人 藤野倶楽部顧問、 学校法人シュタイナー学園元理事長、NPO法人グリーンズ 監事、神奈川県中小企業診断協会 地域創生・創業まちづくり研究会 代表。
Contents