2024年1月27日(土)東御市総合福祉センターにて、第6回東御市における共創による地域交通人材育成アカデミー講演会を開催いたしました。
第6回講演会は講師として、NPO法人ETIC.より山内 幸治(やまうち こうじ)氏をお迎えし、「地域の担い手づくり アントレプレナーシップ〈起業家精神〉溢れる人々を育む」と題してご講演いただきました。
社会課題の解決やまちづくりに向け、「これをやりたい!」との想いを持つ人(起業家、ビジネスパーソン、自治体職員、学生など)に対して共感・応援・励ましあう地域には、挑戦する意欲を持つ人(UターンやIターン)がさらに増える傾向があります。そうした傾向をはじめ、20年にわたって各地で人材育成支援に取り組まれたご経験をお話しいただきました。
地域で挑戦する人を応援する環境と仕組みづくり
大学在籍時にNPO法人ETIC.の活動に加わって以来、全国の地域で人材育成支援に取り組んで来られた山内さん。
活動開始当初、山内さんが取り組んだ事業は、将来起業したいと考えている大学生が、創業まもないベンチャー企業にインターンシップとして参加するプログラムでした。
その後約20年間、全国の企業や行政と協力し新しい挑戦、新しい制度作りなど、自ら進めていこうとする「起業家精神」をもつ方々と協力し、従来の枠組みではできないことを新たな仕組みにして、さまざまなプロジェクトに取り組んでいます。
起業家精神を持ち行動する人材が地域で育つためには、ただアイデアを募るのではなく「やりたい意志」を育てる「種まき」をしていくことが重要です。そして地方で何か新たなことをやりたい、けれど一緒に取り組む仲間がいない、という場合にはインターンシップがマッチすることが多いそうです。地方へのインターンシップ受け入れが少しずつ浸透し、全国80地域に広がっています。
地震など災害が起きた被災地では、復興を目指す地域の中からニーズと、外からの支援をつなげるプロジェクトが実施されました。NPOによる人材マッチングプログラムが活用され、またクラウドファンディングなどで資金集めも行っています。
東日本大震災をきっかけに始まった「右腕派遣」プロジェクトは、東北で被災地のために何かやろう!という人の元で一緒に働く仲間を募り、人件費など資金調達のサポートも行いました。
例えるなら、地域おこし協力隊を民間で行うようなプロジェクトであり、被災地へ派遣された人材は5年間で260名。その中から起業するケースもあり、古民家カフェの開業や、子育て世代が子供を見守りながら働ける、保育スペースがある会社など、多くの事業が生まれました。
2016年からは、複数自治体と協力して地方創生交付金を申請・活用。プロジェクト立ち上げ時は寄付金・助成金を活用することも重要ですが、その後の継続のために地方自治体との協力・仕組みづくりが不可欠です。
地域おこし協力隊やふるさと納税などの活用など、「行政」「地域」「中間支援組織」とが一緒に取り組むことを条件として、5年間この事業に取り組んだ結果、10の自治体で274の新規企業・事業が生まれ、売上の全体は57億円になりました。
地域の資本とつながりを活かしたローカルベンチャー型経済
利益追求だけを志向するのではなく、自然資本や文化資本、社会関係資本(人々のつながり)を活かした、持続可能な新たな経済を「ローカルベンチャー型経済」と呼びます。
地方でのローカルベンチャーの事例をご紹介いただきました。宮城県石巻市で空き家活用とシェアハウス運営を行う「巻組」では、市場に流通しない古い物件を低価格で入手してリノベーション、販売のほか、シェアハウスやゲストハウスとして活用しています。
北海道厚真町で始まった会員制ライドシェアの仕組み「MeetsCommunity」や、島根県雲南市訪問看護ステーション「コミケア」など、地域課題の解決を目指すローカルベンチャーの動きが活発です。
調査によれば、自治体が支援するローカルベンチャーで働く人の半数は30代など子育て世代で、3割がUターンIターン。若い世代の受け皿になっていることがわかります。
岡山県西粟倉村では地域で大切に守られてきた森林と林業を核に様々な地域ビジネスを生み出し、注目されている地方自治体です。
林業の6次産業化を進め、人口1400人だった村内で15年で30社のベンチャー企業が生まれ、ベンチャーの従業員が287名となりました。世代分布を見ると村の30代・40代の半分がローカルベンチャーで働く人々で、子どもも増えて保育園を増設しました。
人口数万人規模までの自治体では、ローカルベンチャー型で新しい担い手を増やしていく取り組みとの相性が良いとのことです。
起業家の挑戦を支えた人材マッチングの取り組み
地方自治体で地域おこし協力隊を募集する場合、行政が主導する場合がほとんどですが、そこにNPOがコーディネーターとして入り、協力隊員にどんなプロジェクトを任せるかなど、人材と事業をマッチングさせる取り組みをされています。地域の中でチャレンジしたい若者と、事業者の間にあるギャップや認識の差を埋める調整役として機能しています。
また、岡山県西粟倉村では「起業型地域おこし協力隊」として「起業したい人」を地域おこし協力隊員として募集しました。3年間の任期を自治体の仕事ではなく、起業の準備期間に充てられ、地域でのベンチャー起業を支援する制度です。協力隊選考の段階で起業プランがあることなど、赴任前の条件が設定されています。
一方で、都会から地方での移住者に限らず、地域の中の創業塾の活動も支援も行われてきました。地元の事業者、地域内のプレイヤーを掘り起こすプロジェクトとして、島根県雲南市、宮城県気仙沼市の事例を紹介いただきました。
宮城県気仙沼市では、「東北未来創造イニシアティブ 経営未来塾」の卒業生となった経営者が、道路工事事業のノウハウを活かして、インドネシアでのセメントリサイクル事業に挑戦。インドネシア人技能自習性が、帰国後も自国で技術を活かした事業に取り組みます。
つづいて目指したのは、気仙沼で働く外国人実習生に向けたインドネシア料理店の開業でした。経営者自身は、飲食店経営の経験がないというケースでしたが、NPOが運営する「兼業・副業のマッチングプロジェクト」を通じて人材を募集。飲食経験のある人材を得て開業することができました。
次に、香川県の三豊市での事例をご紹介いただきました。三豊市ではうどん打ち体験ができる宿泊施設が外国人観光客にヒット。また、市内にある父母ヶ浜海水浴場の景観がインスタグラムをきっかけに人気になり、観光客を集めています。地元企業を中心に出資をしあい開業した、地域に根ざした一棟貸しの絶景宿『URASHIMA VILLAGE』など、新たな取り組みが続いています。
講演会参加者からは、人材不足解消や資金調達についての質問があがり、地方で挑戦する人を応援する仕組みづくり、人材育成支援に向けた具体的な方法が学べた講演会となりました。
山内 幸治〈やまうち こうじ〉氏
NPO法人ETIC.
シニアコーディネーター / Co-Founder
- 早稲田大学在学中に、NPO法人ETIC.の事業化に参画。国内初の実践型インターンシップの事業化や、その仕組みの地域展開に取り組む。その後、社会起業家の育成を行うアクセラレーションプログラムや先進10自治体と連携したローカルベンチャー協議会の設立など、各省庁、大手企業、ベンチャー企業、地方自治体等と連携して、社会や地域課題に取り組む担い手を育む環境整備を進めている。立教大学大学院非常勤講師、NPO法人カタリバ理事などを務める。
合同会社まるごとは、長野県東御市での地域活性化の取り組みとして、地域の交通に関する課題解決を目指し、他の地域の成功事例を学ぶ全8回の講演会を計画しています。
デジタルを活用した地域活性化、まちづくりなどの取り組みに少しでも関心のある方はどなたでも講座にご参加ください。