2025年1月7日、東御市商工会にて「東御市の移動をもっと良くしよう!子どもにとっての移動課題」をテーマとしたシンポジウムを開催しました。
近年、学校部活動の地域移行や共働き世帯の増加により、子どもたちの移動をめぐる環境が大きく変化しています。放課後の習い事や部活動の送迎は、特に共働き家庭にとって大きな課題となっており、子どもたちの活動機会が制限されてしまうケースも出てきています。また、地域の交通事業者の減少により、既存の移動手段の維持も難しくなってきているのが現状です。
このような状況を踏まえ、今回のシンポジウムは、地域のスポーツクラブ、行政関係者、子育て世代の市民など、多様な立場の参加者にお集まりいただき、子どもたちの移動をめぐる課題解決に向けて議論が交わされました。
全国の先行事例から学ぶ移動課題解決のヒント

山中千花氏(元・一般財団法人トヨタ・モビリティ基金)より、子どもの移動に関する全国の先行事例が紹介されました。特に印象的だったのは、国土交通省による「地域の関係者による連携・協働のカタログ」における全国55の事例において、子どもを対象とした取り組みは3事例に留まる点です。
神奈川県横浜市(人口約377万人)では、共働き家庭の子育て世代の50%が子どもの送迎に追われ、自身の求める働き方や子供の習い事への参加を諦めざるを得ない状況にあるとの調査結果があります。そこで横浜市ではタクシー事業者と連携し、子ども送迎専用のアプリを開発。安全な送迎システムを持続的に運営ができるかについて検証が進められています。
愛知県刈谷市(人口約15万人)では、地元のタクシー会社と協力し、放課後の児童クラブや習い事への相乗りタクシーによる送迎サービスを提供しています。利用者・地域の関係者・自治体の負担のもと、手の届く価格設定で提供を継続できるかについて検証が進められています。
北海道士別市(人口約1.7万人)では、地域のスポーツ協会が子どもの習い事送迎を支援する仕組みとして、公式LINEを通じて予約を受け付け、希望の活動場所や日時に合わせた効率的な送迎システムを運営しています。今後、教育や女性活躍推進の予算も充当した公的事業として、または、一部公的支援がある民間事業として継続するかについて検証が進められています。
長野県内の取り組み
県内では、松本市において自治体と地元の大手交通事業者が5年間の協定を結び、路線バスから学校、習い事までの一貫した移動サービスを提供しています。また、白馬村では観光客が多く、住民と料金体系を切り分けてオンデマンドタクシーを提供しています。
先行事例からは、子どもの移動支援に取り組む上で、地域の交通事業者、教育・スポーツ関係者、自治体など多様な主体による連携が重要であり、地域全体で取り組む姿勢が必要であることがわかります。
山中氏からは、今後の対応の方向性として、地域の様々な主体が協力し合い、「いかに収入を増やすとともに経費を削減して運行費用を賄っていけるかが重要」とのポイントが示されました。具体的には、利用者に応じた運賃設定、移動業務がノンコア業務にあたる場合にはその外部委託、車両・ドライバーの効率的なマッチング、ドライバーなど担い手となる人材の巻き込み(含:関係人口の増加)、ライドシェア、公的支援の活用などについてさらに検討し、持続可能なモデルを構築していきたいと思います。
まるごとの実践事例:地域の移動課題に取り組む
合同会社まるごと(総務部 中島)からは、東御市における移動課題への具体的な取り組みについて報告がありました。
まるごとでは、高齢者の移動課題への対応からスタートし、現在は介護タクシー「はぴくるタクシーとうみ」の運営や、福祉施設向けの送迎支援サービス「CareDrive」の展開など、地域の移動ニーズに応える多様なサービスを提供しています。
移動支援と地域活性化を組み合わせた取り組みとして、2024年には、外出が介護予防になる自主トレプログラム「GOトレ」の実証実験を実施。通所型サービスの利用者や地域活動の参加者と共に、外出を通じた健康づくりの可能性を探っています。
高齢者の移動課題に取り組むことからスタートしましたが、地域で持続的なサービスとして提供できるようになるためには、子どもの習い事や通学、観光や買い物など、多様な移動ニーズを束ねて効率的なオペレーションにより、経済性を高めることが必要です。
また、地域の多様な立場の方々からの、直接的な経済メリットに加え、地域の維持・活性化に対する理解と支援が重要となってきます。
地域スポーツクラブから見る子どもの移動課題
SANYtomiクラブマネージャーの上薗氏からは、「子どものスポーツ活動における状況」として、子どもたちの現状や課題について報告がありました。中でも、子どもたちが活動する時間の確保の難しさや、活動場所に関する課題が指摘されました。
クラブでの活動時間を小中学生の下校時間に合わせることができれば、効率のよい運営につながりますが、実際の時間設定は保護者の仕事の都合と調整が難しく、結果として子どもたちの活動機会が制限されてしまう状況が生まれています。特に核家族で共働き世帯の場合、送迎の時間調整が大きな課題となっています。
また、デジタルへの関心から、子どもたちの外遊びや体験機会が減少している現状に対する懸念も示されました。
上薗氏は「地域の子どもたちが、課外活動を通してさまざまな外的要因と接することが大切」と述べ、スポーツ活動を通じた子どもたちの豊かな成長機会の創出の重要性を強調しました。
アルティスタ浅間の森川氏からは、地域スポーツクラブの運営における具体的な課題について報告がありました。
現在、クラブでバスを保有し、送迎を行うことにより保護者の負担軽減を図っています。しかし、人件費やバスの維持管理費用は、受益者負担(会費)のみでは困難であり、地域のスポンサーからの支援に支えられている現状も語られました。
今後の継続的な運営のため、送迎に関わるコストと利便性のバランスが課題です。
また、お二人からは、部活動の地域移行に伴う送迎需要の増加や、保護者の負担軽減の必要性について共有されました。さらには、地域スポーツクラブとして単なるスポーツ指導だけでなく、子どもたちの人間形成に関わる責任があることや、学校教育と連携しながら、子どもたちの成長支援を担う役割についても語られました。
会場で参加された東御市より、子供に対する活動施策やアドバイスなどが共有されました。
子どもたちの豊かな育ちを支える地域交通の実現へ ~地域の力を結集して~

送迎がネックとなり、子どもたちの機会損失が起きないよう、シンポジウムでは、以下の3つの視点から解決策について議論が展開されました。
- スポーツや習い事の活動と送迎の両立: 既存の送迎資源の効率的な活用と新たな支援の可能性
- 持続可能な運営モデルの構築: 適切な受益者負担と公的支援のバランス
- 多様な関係者の協働: 行政、学校、地域団体、民間事業者の連携強化
今回のシンポジウムを通じて、子どもたちの移動課題解決には、行政・事業者・地域住民が一体となった取り組みが不可欠であることが改めて認識されました。特に、スポーツや文化活動などの課外活動は、子どもたちの健全な成長に欠かせない要素であり、それを支える移動手段の確保は地域の重要な課題です。
今後は、今回の議論を踏まえ、具体的な取り組みの実現に向けて、関係者による協議をしていく予定です。
子どもたちが安心して活動できる環境づくりは、地域の未来を創る重要な要素です。引き続き、市民の皆様のご理解とご協力をお願いいたします。