講演会を開催しました:通所施設における送迎業務DX化と介護タクシーの活用

地域文化の継承やモビリティづくりを目的に設立した「合同会社まるごと」は、高齢者のお出かけ支援や介護タクシー事業を通じて地域課題の解決に取り組んできました。本講演会では、移動課題の解消やまちづくりに向けた施策の一例として、送迎業務のDX化と介護タクシーの活用を取り上げました。

日時2026年1月27日(火) 16:00〜17:30
会場東御市中央公民館 学習室5
参加方法会場参加およびオンライン(Zoom)
講師北嶋 史誉(きたじま ふみたか)氏
一般社団法人ソーシャルアクション機構 代表理事

デイサービスの送迎を地域の交通資源として捉え直し、人手不足とコスト増が深刻化する通所介護の送迎業務を、DXと介護タクシーを活用してどのように再設計すればよいのかを、実践事例をもとに検討しました。送迎用配車システム「福祉Mover」の開発や、介護タクシーとのマッチングによる外部化の仕組みについて北嶋氏から解説いただき、送迎業務の負担軽減と質・安全性の両立、持続可能な運営モデルの可能性について考えました。

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概要と背景

高齢者の免許自主返納が進む一方で、その後の移動手段の確保が大きな課題となっています。特に車社会の地方では、高齢者が社会的に孤立してしまうリスクが高まっています。こうした状況に対応するために、介護事業者がデイサービスの送迎車を、交通弱者の「生活の足」として活用する取り組みが始まりました。

この取り組みは、国土交通省や経済産業省の支援もあり、主に群馬県を中心に実証実験が進められています。

サービスの仕組み

2.1 デイサービス送迭車の活用

デイサービスの送迎車は、利用者の送り出しと迎えに行く時間以外は、駐車場に止まっている時間が長いものです。この「空き時間」や「空席」を活用し、要支援・要介護者や身障手帳を持つ交通弱者にも利用できるようにしました。

高崎市にある介護施設では、1日に300人以上の利用者を38台の車で送迎しています。かつて同施設の社長であった北島史誉さんは、送迎車が「縦横無尽に走っている」その時間と資源を交通弱者に役立てたいと考え、この仕組みを立ち上げました。

2.2 AIによる配車管理

相乗りを可能にしたのは自社で開発した配車管理ソフトウェアとAI技術です。どの車がどこを走っているかがリアルタイムで把握でき、利用希望者から依頼が入ると、AIが最も効率よく寄り道できる車を選び、ドライバーに誘導します。

利用者はスマートフォンに登録した複数の地点から行き先を選んで送信すると、車が迎えに来ます。

2.3 複数事業者の連携

一つの地域で複数の施設が互いの送迎車を融通し合えば、より便利なシステムになると考え、県内外で12法人の協力を取り付けました。国の補助金を得る中で、3つの地域で実証実験を開始し、参加する車は222台に上ります。

実証実験の成果

3.1 利用者の反応

高崎・前橋エリアでサービスを開始したところ、1ヶ月で利用希望者が130人を超えました。

実証実験に参加した利用者は、免許を自主返納した後に、自由に外出できない閉塞感を感じていましたが、この介護タクシーサービスを使い始め、温泉施設など近隣の場所にも行けるようになりました。

3.2 事業者にとっての効果

介護事業者にとっても、この仕組みは経営的な効果があります。介護タクシーの送迎を委託することで、施設側は車を持たなくてもよく、プロのドライバーが安全で効率的に送迎を行うことで、職員の残業や保険費用の削減につながります。また、新規利用者の獲得にも貢献し、施設の収益も改善されています。

さらに、介護タクシーに送迎を依頼する事業者が増えたことで、介護タクシー事業者側にも安定した収入源となりました。

3.3 若い起業者の参入

介護タクシーは、デイサービス事業に入るのに数千万円かかるのに比べて、リスクが少ないものです。このため、かつて施設で働いていた看護師や介護士などの若い人が、介護タクシーの個人事業主として独立するケースが増えています。全国で600か所以上に展開する大手の介護事業者もこの仕組みの活用を開始しており、その成果が注目されています。

課題と今後の方向性

4.1 高齢者とスマートフォンの問題

普及には課題もあります。高齢者の中にはスマートフォンの操作が難しいと感じる人が少なくありません。対策として、事業所はスマホ操作のサポート隊を結成し、登録した利用者に使い方を教える取り組みを行っています。ただ、電話での申し込みは現時点では受け付けていないため、今後の対応が求められます。

4.2 既存の交通機関との棲み分け

バスやタクシーとの競合が懸念されるため、既存の交通機関と棲み分けを図ることが重要だとされています。介護タクシーは「ドアツードア」という強みを持ち、路線バスが難しい地域や個別対応が必要なケースに特化していくことが考えられます。

4.3 費用と補助金

現在の実証実験は国の補助金で無料で実施されていますが、将来的には有料化も視野に入っています。自治体が「タクシーチケット」を配布するなど、行政側の支援も組み合わせることで、持続可能なサービスに発展していくことが期待されます。

4.4 スクールバスや他分野との連携

国土交通省の資料では、交通・医療福祉・教育の連携が提唱されています。デイサービスの送迎車だけでなく、スクールバスなどの車両リソースも活用し、「モビリティの共有化」を進めていくことが今後の方向性として示されました。デイサービスの送迎車は全国で25万台以上あり、この巨大なリソースをどう活用するかが今後の鍵となります。

質疑応答

5.1 介護職員による送迎の人手不足について

質疑の中で、介護施設における送迎業務の人手不足が大きな問題として取り上げられました。特に、「送迎したくない」と言う介護職員が増えており、運転できる職員が見つからないケースも出ています。車を運転することへのためらいが強まっている介護職の中には、軽自動車であっても負担に感じる方もいるとのことでした。北嶋氏はこうした状況を「介護タクシーに委託すべき理由の一つ」と捉え、施設側が送迎を抱え込む必要がなくなる仕組みの重要性を改めて強調しました。

5.2 車両の種類やマップの精度について

使用する車両については、ハイエース(大型ワンボックス)と軽自動車で異なる対応が必要であるとされました。特に地方の狭い道路では、大型車両の通行が難しい場所もあり、経路マップの精度が不十分だと利用者やドライバーの不満につながるケースがあります。システムではGoogleMapなどの地図データを使用していますが、実際の道幅や交通状況との乖離が発生することがあり、改善の余地があることが指摘されました。

5.3 配車システムの仕組みとモニタリングについて

GPS位置情報を活用した配車システムの仕組みについて質問がありました。北嶋氏によると、事業所によっては各車両のリアルタイム位置情報をモニターで確認できる「司令塔」のような操作センターを設けています。近隣にある複数のデイサービス施設の送迎車を統合して運営すれば、車両台数の削減や送迎時間の短縮につながることも確認されているとのことでした。

5.4 送迎委託の費用計算と行政の制度について

送迎業務を外部に委託した際の費用計算や、介護保険上の減算について質問がありました。北嶋氏は、厚生労働省の通達により、介護保険や障害福祉の送迎に関する委託が認められている点を説明しました。委託することで交通事業者側の収益にもなるため、「委託した方がいい」と考える市町村や事業者が増えているとのことでした。また、介護タクシーによりスタッフの負担が軽減され、施設経営としても収益改善につながる実績も報告されました。

まとめ

高齢者の免離返納が進む社会では、「老後の移動手段への不安」が老後の不満の1位となっています。介護タクシーやデイサービス送迎車の相乗り活用は、こうした課題に対する民間側の答えの一つとなっています。

この取り組みは、介護事業者・交通事業者・高齢者の三者にとっての「三方よし」を目指しており、既存の枠組みを超えて、移動インフラの一つとして発展していくポテンシャルがあります。今後、自治体や企業との連携をさらに深め、各地域に適した形で普及していくことが期待されます。

北嶋 史誉〈きたじま ふみたか〉氏
一般社団法人ソーシャルアクション機構 代表理事

  • 1992年、医療法人社団日高会日高病院へ入職
  • 1998年より、株式会社エムダブルエス日高社長就任。同社において、一般社団法人ソーシャルアクション機構を設立。「福祉ムーバー」を開発
  • 2022年に同社を退職。同社団法人の代表理事に専念
  • 平成28年度(2016年)経済産業省「健康寿命産業創出推進事業」採択
  • 群馬イノベーションアワード2016スタートアップ部門入賞
  • ぐんぎんビジネスサポート大賞2016優秀賞受賞
  • 日本財団ソーシャルイノベーションアワード2019審査員特別賞受賞
  • 令和2年度(2020年)経済産業省「地域・企業共生型ビジネス導入・創業促進事業」採択
  • 令和3年度(2021年)前橋市「通所介護事業所等の送迎業務効率化DX」実証事業採択
  • 令和3年度(2021年)経済産業省「地域新MaaS創出推進事業」採択
  • 令和4年度(2022年)国土交通省「共創モデル実証プロジェクト」採択
  • 令和4年度(2022年)群馬版MaaSサービス実装(デジタル田園都市国家構想推進交付金)事業受託  等
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